Japanese Fiction Author
Naoko Ueda
怪奇幻想小説 / 純文学 / 歴史文学
記憶は川の流れのように
忘れ去られてもなお
その跡を刻み続ける
"Memory, like the flow of a river,
continues to carve its marks
even after it has been forgotten."
スクロール
Biography
上田直子は1978年、古都・京都に生まれた。幼少期から祖母の語る怪談や江戸時代の民話に魅了され、言葉の持つ呪術的な力に早くから目覚めていた。京都大学文学部日本文学専攻を卒業後、大阪の出版社で編集者として働きながら、深夜に自らの物語を書き綴り続けた。
「私が物語を書くのは、生き残るためではなく、忘れられていくものたちに声を与えるためです。」
2003年、短編集『夜の縁を縫う』でデビュー。同作は発売翌月に増刷を重ね、文芸界から鮮烈な注目を集めた。2007年には初の長編小説『水鏡の底』を発表。この作品は大正時代の京都を舞台に、ある旧家に伝わる呪いと、それを解こうとする若い女性の姿を描いた幻想文学の傑作として評価され、第40回泉鏡花文学賞を受賞。一躍、現代日本怪奇文学の旗手として確立された。
その後も精力的に執筆を続け、歴史小説から現代を舞台にしたサスペンス、詩情豊かな純文学まで幅広いジャンルを横断しながら、常に「見えないものを見る」という一貫したテーマを作品に織り込んでいる。彼女の文体は古典的な日本語の美しさと現代的な感覚が見事に融合しており、読者を独特の幻想空間へと誘う。
現在は東京都世田谷区に在住し、猫二匹と共に暮らしながら精力的に執筆活動を続けている。近年は若手作家の育成にも力を入れており、各地の文学講座やワークショップで指導にあたっている。また、京都芸術大学非常勤講師として日本文学の魅力を次世代へ伝える活動にも携わっている。
Bibliography
2007
水鏡の底
大正時代の京都を舞台に、旧家の呪いと若き女性の解放を描く幻想長編。
怪奇幻想小説2011
緋色の翼
戦国時代の女忍者と公家の青年の禁じられた愛を描いた歴史恋愛小説。
歴史小説2015
雨の中の亡霊
現代東京を舞台に、記憶を失った女性が出会う奇妙な「雨の日だけ現れる男」の物語。
現代幻想2018
千の灯籠
江戸の盂蘭盆会を背景に、死者と生者が交錯する短編連作集。七つの物語が織りなす輪廻の世界。
短編連作2021
夢の地図帖
人の夢の中だけを旅することができる地図師・望月透の、奇妙な依頼を巡るミステリ小説。
幻想ミステリ2024
散りゆく花の記憶
終戦直後の広島を舞台に、一枚の古い写真をめぐる三世代の女性たちの物語。
純文学Awards & Recognition
2004
第17回日本ホラー小説大賞・短編賞
受賞作:「かがやく闇の中で」(短編集『夜の縁を縫う』収録)
2007
第40回泉鏡花文学賞
受賞作:長編小説『水鏡の底』
2012
第28回山本周五郎賞
受賞作:長編歴史小説『緋色の翼』
2016
第154回直木三十五賞(候補)/吉川英治文学賞
受賞作:長編小説『雨の中の亡霊』
2019
第12回本屋大賞(2位)
選出作:連作短編集『千の灯籠』
2022
第67回芸術選奨文部科学大臣賞(文学部門)
受賞作:長編小説『夢の地図帖』
2025
第171回直木三十五賞
受賞作:長編小説『散りゆく花の記憶』
Writing Philosophy
上田直子にとって、物語を書くとは「消えゆくものへの鎮魂」だという。彼女が繰り返し選ぶテーマは、死、記憶、喪失、そして「見えないものと見えるものの境界」だ。その世界観の根底にあるのは、幼少期に祖母から聞かされた数多くの怪談と、京都という古都が持つ、歴史の重さと霊的な気配への深い共鳴である。
「私の書く怪異は、ただ怖いだけの存在ではありません。それは、時代の流れで忘れられた人々の叫びであり、言葉を持てなかった者たちの最後の声です。書くことは、私にとって一種の降霊術なのかもしれません。」と、あるインタビューで語っている。
文体においては、古典文学の語調と現代口語の融合を意識的に追求している。和歌や能の持つリズム感が文章の骨格をなしており、読者は知らず知らずのうちに物語の呪術的なリズムに引き込まれていく。
消えゆくものたちに 声を与えることが 私の物語の 使命である
Interview
小説を書き始めたきっかけを教えてください。
子どもの頃、祖母がよく「昔話」を語り聞かせてくれました。近所の旧家にまつわる怪異、川で溺れた子どもの霊、梅の木に宿る女の話。怖いけれど、どれも美しかった。その「恐れと美しさが同居する感覚」を言葉で残したくて、書き始めたんです。祖母は私が二十歳のとき亡くなりましたが、今でも書いているとき、隣に座っているような気がします。
作品のアイデアはどのように生まれるのですか?
多くの場合、「断片」から始まります。道端で見かけた古い写真、夢の中の誰かの声、ふと目に入った古地図の地名。そういった意味を持たない小さな欠片が、何日も何週間も頭の中で転がり続けて、やがて物語の核になっていく。私は常に手帳を持ち歩いて、気になるものを書き留めています。その手帳はもう三十冊以上になりました。
直木賞受賞作『散りゆく花の記憶』について聞かせてください。
あの作品は、私にとって初めて「実在した誰か」の痕跡を起点に書いた小説です。古書店で見つけた一枚の写真——被爆前の広島で撮られたとみられる三人の女性の写真——から出発しました。彼女たちは誰なのか、その後どうなったのか、何も分からない。だからこそ、私が物語を与えなければならないと思った。戦争文学は書くことが怖かった。でも、怖いから書いた。それが正直なところです。
読者へのメッセージをお願いします。
本を読む時間は、ある意味で「死者と話す時間」です。作者はもちろん、その物語に登場する人々も、物語を読みながら心に浮かべた自分の過去の記憶も、みんな本の中で生きています。私の書いた物語が、読んでくださった方の心に何かを残せたなら、それ以上の喜びはありません。どうか、ゆっくり、丁寧に読んでいただければ。
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